年金改革関連法案③年金を受け取りながら働くと損をする?!在職老齢年金の改定方向について

今回は年金制度改革の3回目、「在職老齢年金」の改定方向についてです。人生100年時代、60歳以降も働く人が増えている中で、一定以上の収入があると年金が停止される制度がどのように変わっていくのか、サラリーマンとして働く人にとって興味があるのではないでしょうか。今回も、厚生労働省が公開している社会保障審議会年金部会の資料および議事録(2024年11月~12月)を参考にしています。


ポイント

  • 在職老齢年金は年金をもらいながら働く場合、基準額を超えると年金の支給停止がなされる制度
  • 少子高齢化対策として発足した制度だが、高齢者の就業調整の原因となっているとの指摘がある
  • 撤廃案、基準額引き上げ案が議論されている

目次


1. 在職老齢年金とは

老齢厚生年金は60歳前半でも受給できますが、適用事業所で働く70歳未満の人は厚生年金の被保険者として70歳まで保険料を払い続けることになります。つまり、厚生年金の被保険者でありながら年金を受け取るケースがあるということです。

少子高齢化が進む中で現役世代の負担が重くなっているため、年金を受給している人でも報酬のある人は年金制度を支える側にまわってもらうという考え方に基づく仕組みが在職老齢年金制度です。

在職老齢年金は厚生年金保険の被保険者だけに適用される制度なので、厚生年金保険に加入していない自営業などで所得を得ている人は調整対象になりません。一方で、70歳以上で厚生年金保険被保険者でなくなったとしても、適用事業所に使用されて年齢以外の要件を満たす場合は被保険者とみなされて在職老齢年金が適用されます。

実際の支給停止額は以下のように計算されます。

--- 2024/04/30追記 ---
下記基準額は、令和7年度は51万円に増額されています。
-------------------------------

支給停止額
 = (総報酬月額相当額+基本月額-基準額(50万円))÷2

総報酬月額相当額
 =その月の標準報酬月額+その月以前1年間の標準賞与額の合計÷12

標準報酬月額が40万円、標準賞与額の合計が120万円の場合、総報酬月額相当額は50万円になります。老齢厚生年金の基本月額が10万円の場合、以下の計算により5万円が支給停止されます。

支給停止額
 = (総報酬月額相当額50万円+基本月額10万円-基準額50万円)÷2
 = 5万円

この基準額は、現役男子被保険者の平均月収(ボーナスを含む)を基準として設定され、賃金の変動に応じて毎年度改定されています。

ちなみに60歳代前半を「低在老」、65歳以降を「高在老」と呼んだりしますが、支給停止の計算は同じです。

2. 在職老齢年金の課題

現状の在職老齢年金を見直す意義について、第21回社会保障審議会年金部会2024年11月25日資料2では以下のように記載されています。

  • 現在のところ65歳以上の在職老齢年金制度による就業抑制効果について実証研究に基づく定量的な確認はされていないが、世論調査に基づくと、60代後半の3割強が「厚生年金を受け取る年齢になったときの働き方」の問に対し、「年金額が減らないように、就業時間を調整しながら会社などで働く」と回答しており、一定程度の高齢者は在職老齢年金制度の存在を意識しながら働いている様子が伺える。
  • また、高齢化や人手不足を背景に一部の業界から、「人材確保や技能継承等の観点から、高齢者活躍の重要性がより一層高まっているが、在職老齢年金制度を意識した就業調整が存在しており、今後、高齢者の賃金も上昇していく傾向にある。高齢者就業が十分に進まないと、サービスや製品の供給に支障が出かねない」といった旨の声も聞かれ、少子高齢化が進行し、こうした状況が今後様々な業界へと波及することもあり得る。
  • こうした中、在職老齢年金制度が高齢者の就業意欲を削ぎ、さらなる労働参加を妨げている例も存在していることを踏まえ、高齢者の活躍を後押しし、できるだけ就業を抑制しない、働き方に中立的な仕組みとする観点から、在職老齢年金制度の見直しを検討する。
内閣府「生活設計と年金に関する世論調査」(2024年)によると、「厚生年金を受け取る年齢になったときの働き方」の問に対し、「年金額が減らないように、就業時間を調整しながら会社などで働く」と回答した方の割合は44.4%で、年齢階級別にみると、60代前半は49.4%、60代後半は31.9%、70歳以上では19.5%だったそうです。

2022年度末のデータで、65歳以上の年金受給者約308万人に対し、この制度によって支給停止となっている人が約50万人(約16%)とのことです。また、支給停止対象額は約4,500億円とのことで、制度の見直しには財源が必要であることもわかります。

3. 在職老齢年金の改正案

このような状況を踏まえて、この制度の見直しはどのような方向性となっているのでしょうか。ここからは、「社会保障審議会年金部会における 議論の整理」(2024年12月25日)のPDF資料から論点を抜粋していきます。引用部分はイタリック文字としています。

まず大方針についてです。

本部会の議論では、
・保険料を拠出した者に対し、それに見合う給付を行うという公的年金の原則との整合性
・高齢者の活躍を後押しし、できるだけ就業を抑制しない、働き方に中立的な仕組みとする観点
から、現行の在職老齢年金制度を見直すことで概ね意見は一致した。

具体的な見直し案について、本部会では、賃金と老齢厚生年金の合計額による支給停止の基準額(現行は50万円)を引き上げる案と、廃止案について議論したが、特定の案に意見はまとまらなかった。

見直しには合意したが、具体案については意見がまとまっていないとなっています。では、この具体案の内容はどうなっているのでしょうか。

在職老齢年金制度の見直し案
制度基準額考え方支給停止対象者数支給停止額所得代替率
影響
現行制度賃金と年金の合計額が基準額を
上回る場合、賃金2に対し年金1を
支給停止
50万円基準額は男子厚生年金被保険者の賃金(ボーナス含む)を
もとに設定(毎年度名目賃金変動率を乗じている)
約50万人
(在職受給権者の約16%)
約4,500億円-
改正案1在職老齢年金制度の撤廃-保険料拠出者に対し、それに見合う給付を行う年金制度の
原則を重視
--▲0.5%
改正案2現行制度と同様71万円同一企業における勤続年数の長い労働者が、現役期に近い
働き方を続けた場合の賃金(61.7万円)に加え、一定以上の
厚生年金加入期間に基づく年金収入(9.7万円)を得ても
支給停止とならないように設定
約23万人
(在職受給権者の約7%)
約1,600億円▲0.3%
改正案3現行制度と同様62万円近年の60歳代高齢者の平均賃金の上昇傾向を踏まえ、
平均的な収入を得る50歳代の労働者が、60歳代で賃金の
低下を経ることなく働き続けた場合の賃金(52万円)に
加え、一定以上の厚生年金加入期間に基づく年金収入を
得ても支給停止とならないように設定
約30万人
(在職受給権者の約10%)
約2,900億円▲0.2%

案1が撤廃案、案2と案3が基準額の引き上げ案となっています。また、それぞれの案における対象者数、停止額、所得代替率に対する影響も示されています。

主な意見としては以下が記載されています。

・高齢者の就労促進や保険料を拠出した方にそれに見合う給付を行う年金制度の原則を踏まえて、支給停止の基準額の引上げから始めて、将来的な廃止まで段階的に見直すべき
・将来世代の給付水準の低下に配慮を求める
・制度を撤廃することで年金制度の原理原則との整合性を高めつつより納得性の高い年金制度にすることが重要
・撤廃に伴って税制上の対応等を求める

この議論については以下の記載で終わっています。

本部会での意見を踏まえて、政府において具体的な制度の見直し案について検討を行う必要があるが、検討結果によっては、基準額の引上げにとどまることとなる。 仮に在職老齢年金制度が残る場合には、高齢者の就労インセンティブを阻害する影響や、あるいは就労が増加することによる経済全体へのプラスの影響等について引き続き実態の把握や分析が重要である。 また、賃金以外の収入がある者との公平性の観点から総収入をベースに年金額を調整する制度とすることなど、調整方法そのものの見直しに関する意見、在職老齢年金制度が正確に理解されていない中で、感覚的に就業調整を行っている事例に対して周知・広報を求める意見があったところであり、こういった意見も踏まえて引き続き検討を進めるべきである。

個人的には最後に記載のある「公平性の観点から総収入をベースに年金額を調整する制度」が望ましく思いますが、抜本的な制度変更には時間がかかること、および財源の課題もあることなどから案3になるのではないかと思っています。

4. まとめ

今回は「在職老齢年金」制度の見直し方針について解説しました。公正な制度を求めつつも、財源課題もあり、小幅な改定にとどまるであろうと感じています。
1級ファイナンシャルプランニング技能士
CFP®️認定者
1級DCプランナー

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