年金改革関連法案④給与収入が高い人の年金額が上がる?!標準報酬月額の上限の見直しについて

今回は年金制度改革の4回目、「標準報酬月額の上限」の改定方向についてです。標準報酬月額は、保険料の計算にも年金の計算にも使われるものですが、ある一定以上の収入がある人は上限の値となっています。
現在、標準報酬月額の上限に達している人の割合が高くなっており、今後の賃金上昇をふまえるとその割合はさらに高くなることが予想されます。上限をどこまで上げようとしているのか、将来の年金額はどのように変わるのかなどについて解説します。
今回も、厚生労働省が公開している社会保障審議会年金部会の資料および議事録(2024年11月~12月)を参考にしています。
ポイント
- 標準報酬月額は厚生年金の保険料や給付額の算出の基準となる金額である
- 標準報酬月額の上限に位置する人の割合が高く、今後の賃金上昇でさらに増える可能性がある
- 現行の改定ルールは全被保険者の平均標準報酬月額の2倍に相当する額をもとに決められている
- 上限額の引き上げと同時に、上限額に位置する人の割合を基準に改定するルール変更が提案されている
目次
1. 標準報酬月額とは
「サラリーマン向け社会保険料 基本のキ!!」の投稿でも解説しましたが、標準報酬月額は社会保険の保険料を計算する基準となるものです。以下のように、健康保険と厚生年金で上限・下限が異なっています。
標準報酬月額
賞与にも標準賞与額という基準があり、標準賞与額は賞与の額から千円未満の端数を切り捨てた金額になります。ただし上限が設定されており、健康保険については年度の累計額573万円(年度は4/1から翌年3/31まで)、厚生年金は同一月の支給につき150万円が上限となっています。
厚生年金の保険料は、標準報酬月額と標準賞与額を用いて以下のように計算されます。
給与: 保険料 = 標準報酬月額 x 保険料率
賞与: 保険料 = 標準賞与額 x 保険料率
ここで、厚生年金保険料の料率は18.3%ですが、労使折半なので加入者の料率は9.15%になります。
これに対して、支給される年金の報酬比例部分は以下のような計算で決まります。
2003年(平成15年)3月以前の計算額
= 平均標準報酬月額 x 7.125 / 1,000 x 2003年(平成15年)3月までの加入月数
※平均標準報酬月額: 2003年(平成15年)3月以前の加入期間について、標準報酬月額の総額を、2003年(平成15年)3月までの加入月数で割った額
2003年(平成15年)4月以降の計算額
= 平均標準報酬額 x 5.481 / 1,000 x 2003年(平成15年)4月以降の加入月数
※平均標準報酬月額: 2003年(平成15年)4月以降の加入期間について、標準報酬月額と標準賞与額の総額を、2003年(平成15年)4月以降の加入月数で割った額
上記のとおり、標準報酬月額、標準賞与額は保険料の算出にも、年金の報酬比例部分の算出にも使われることになります。
標準報酬月額の上限については、給付額の差があまり大きくならないようにする観点から、被保険者全体の平均標準報酬月額の概ね2倍となるように設定された経緯があります。また、全被保険者の平均標準報酬月額の2倍に相当する額が標準報酬月額の上限を上回り、その状態が継続すると認められる場合には、政令で上限の上に等級を追加することができることとなっています。直近では、この改定ルール(2倍ルール)に従って令和2年9月に32等級(65万円)が追加されています。
2. 標準報酬月額の課題
標準報酬月額の現状ついて、第21回社会保障審議会年金部会2024年11月25日資料3では以下が挙げられています。
- 厚生年金における標準報酬月額の上限等級に該当する者の割合が6.5%となっており、健康保険における上限等級に該当する者の割合1%未満と比較して多くの者が上限等級に該当している
- 男性のみではその割合は9.6%となっており、上限等級に最頻値がある
- 上限等級の額について、健康保険との上限額の差が大きく開いている
健康保険の上限額については、厚生年金のようなルールではなく、上限等級に含まれる人の割合をベースに改定が行われているようです。
6.5%という割合は、278万人に相当するそうです。特に男性においては上限となっている人が最頻値になっていてとてもいびつな構造です。負担能力があるのに負担が相対的に軽い状態になっているという側面もあります。
3. 標準報酬月額上限の改正案
このような状況を踏まえて、標準報酬月額上限の見直しはどのような方向性となっているのでしょうか。ここからは、「社会保障審議会年金部会における 議論の整理」(2024年12月25日)のPDF資料から論点を抜粋していきます。引用部分はイタリック文字としています。
まず、今回の見直しの方向性として以下が記載されています。
- 上限該当者は、負担能力に対して相対的に軽い保険料負担となっている中、今後、賃上げが継続すると見込まれる状況において、負担能力に応じた負担を求める観点や将来の給付水準全体にプラスの効果をもたらす所得再分配機能の強化の観点から、現行の標準報酬上限額の改定のルールを見直して新たな等級を追加することについては概ね意見は一致した。なお、上限を引き上げることの負担感は、被保険者本人にも事業主にとっても相当大きいものであることに留意が必要との意見があった。
- この新しい改定ルールについては、健康保険法の改定ルールを参考に、上限等級に該当する者が占める割合に着目して上限等級を追加することができるルールが考えられる。その際には、男女ともに上限等級に該当する者が最頻値とならないような観点を踏まえつつ、事業主負担への配慮から、引き上げられる上限は小幅に留めるとともに、必要があれば影響等を検証しつつ段階的に引き上げるべきとの意見もあり、本部会での意見を踏まえて、政府において具体的な制度の見直し案について検討が必要である。
標準報酬月額上限改定案
上限を75万円、83万円、98万円まで引き上げる案となっています。それぞれのケースでの保険料収入の増加額、所得代替率の増加、給付の増加額も示されています。改定ルールとしては上限該当者が案1では4.0%、案2では3.0%、案3では2.0%を超えた場合に上限を引き上げる方向です。
所得代替率の増加については、以下の記載もあります。
- なお、2024(令和6)年財政検証のオプション試算で確認されたとおり、標準報酬月額の上限の見直しにより、所得代替率へのプラス影響が存在する。そのため、在職老齢年金制度の見直しによる所得代替率へのマイナス影響と相殺する形での見直しを求める意見があった一方で、単なる財源対策とするべきではないとの意見もあった。
前回の投稿で在職老齢年金の改定の方向を解説しましたが、その改正案の有力候補(改正案3)の所得代替率への影響が▲2.0%であったことを踏まえると、所得代替率が+2.0%で相殺できる改定案1が有力候補ではないかと感じています。
「議論の整理」の最後には以下が記載されています。
- その他、中間程度の等級該当者に比べ、上限該当者の賞与の支給がないことも踏まえて、給与と賞与のバランスに関わらず、公平に負担を求められるような仕組みが必要といった意見や標準報酬月額制度そのもののあり方の見直しも検討すべきとの意見もあった。
個人的には最後に記載のある「公平に負担を求められるような仕組み」を考えて欲しいと思います。給付については標準報酬月額と標準賞与額の総額を加入月数で割っているのに対し、標準報酬月額と標準賞与額が別々の上限を持っているのはおかしいのではないかと感じます。
4. まとめ
今回は標準報酬月額の上限の見直し方針について解説しました。年金部会では真っ当な議論が行われていることを確認できましたが、改定は抜本的なものにはなりそうもないことに不満と落胆を感じます。皆様はどのようにお考えでしょうか。
1級ファイナンシャルプランニング技能士
CFP®️認定者
1級DCプランナー
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