早いものでもう10月になりました。私の場合、家族が多く年間の医療費が確実に10万円を超えるので、医療費については支出のたびに確定申告で利用できる医療費フォームに入力を行っています。
今回は、この医療費控除について、誰の医療費まで医療費控除の合算の対象となるのかについて解説します。
- 医療費控除およびセルフメディケーション税制には、「自己または自己と生計を一にする配偶者やその他の親族のために」支払いを行ったことが要件となっている
- 「生計を一にする」とは、実態として同一生計とみなされることであり、所得要件はない
- 所得要件がある扶養控除を受けられない親族に対する医療費等の支払いでも、生計一の要件を満たせば医療費控除の合算対象になる
医療費控除
医療費控除には通常の医療費控除とセルフメディケーション税制(特定一般用医薬品等購入費を支払った場合の医療費控除の特例)という2種類があり、どちらかひとつの制度を選択して申告する必要があります。
医療費控除
まずは通常の医療費控除について解説します。
医療費控除については、国税庁のホームページに以下の記載があります。
その年の1月1日から12月31日までの間に自己または自己と生計を一にする配偶者やその他の親族のために医療費を支払った場合において、その支払った医療費が一定額を超えるときは、その医療費の額を基に計算される金額(下記「医療費控除の対象となる金額」参照))の所得控除を受けることができます。これを医療費控除といいます。
世帯主が親族のために支払った医療費も対象になるということですね。また、「支払った場合」ということで、医療を受けた日ではなく、支払った日で判断するので、その年の未納分は含めません。前年末に医療を受けて本年に支払った場合はその額を含めることになります。
医療費控除の対象となる医療費は、国税庁の「医療費控除の対象となる医療費」のページに詳しく説明されています。結構細かいのでよくわからないものも多く、私も悩んだらその都度調べています。
医療費控除の額は以下の図のように計算します。
医療費控除の額
= 医療費の合計額 – 保険金等で補填される金額 – 以下の①②の少ない方
①10万円 ②総所得金額等の5%
10万円と総所得金額の5%の少ない方の金額ということは、総所得金額が200万円以上の場合は10万円、200万円未満の場合はその5%を差し引くということです。控除限度額は200万円です。
例えば、所得金額400万円の方の場合で、医療費の合計額が50万円、受領した保険金が30万円の場合、以下のように計算します。
医療費控除の額 = 50万円 – 30万円 -10万円 = 10万円
セルフメディケーション税制
もうひとつの制度、「セルフメディケーション税制」について解説します。制度の概要は以下のとおりです。
健康の保持増進及び疾病の予防として一定の取組を行っている方が、その年中に自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族のために12,000円を超える対象医薬品を購入した場合には、「セルフメディケーション税制」(通常の医療費控除との選択適用)を受けることができます。
この控除を受ける場合には、通常の医療費控除を受けることができませんので、ご留意ください。
令和6年度確定申告特集「セルフメディケーション税制とは」より引用
「一定の取組」には健康診断やインフルエンザの予防接種などが含まれます。対象医薬品は、いわゆるスイッチOTC医薬品に指定されている医薬品で、購入した際のレシートに対象医薬品であることが明記されているものになります。
セルフメディケーション税制における控除額は以下のように計算します。
セルフメディケーション税制による控除額
= 特定一般用医薬品等(OTC医薬品)購入費 – 保険金等で補填される金額 – 12,000円
例えばスイッチOTC医薬品の購入総額が70,000円、保険で補填される金額がない場合、以下の計算により58,000円の所得控除が受けられることになります。
セルフメディケーション税制による控除額
= 特定一般用医薬品等(OTC医薬品)購入費 – 保険金等で補填される金額 – 12,000円
= 70,000 – 0 – 12,000
= 58,000
セルフメディケーション税制における控除限度額は88,000円で、通常の医療費控除が200万円なのに対し少額です。ふたつの制度で所得控除額を計算し、大きい金額の方の制度を選択すると有利になります。
一般に、医療費の総額が大きい場合は限度額の高い通常の医療費控除で計算される控除額の方が大きくなりますが、保険金等で補填される金額が大きい場合もあるので断定はできません。状況に応じて選択するようにしてください。
セルフメディケーション税制を選択する可能性がある場合は、計算できるようにしておく必要があるので、レシートは捨てずに保管しておきましょう。
医療費控除合算対象者
前の章で見てきたとおり、通常の医療費控除も、セルフメディケーション税制も、「自己または自己と生計を一にする配偶者やその他の親族のため」に支払った場合に対象になります。それでは、この「生計を一にする」とはどういうことでしょうか。
国税庁のホームページには以下の記載があります。
所得税法第73条第1項《医療費控除》において、医療費控除は、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族に係る医療費を支払った場合に適用することとされています。所得税基本通達2-47《生計を一にするの意義》において、この場合の「生計を一にする」とは、必ずしも同一の家屋に起居していることをいうのでなく、次のような場合には、それぞれ次によることとされています。
- 勤務、修学、療養等の都合上他の親族と日常の起居を共にしていない親族がいる場合であっても、次に掲げる場合に該当するときは、これらの親族は生計を一にするものとする。
- 当該他の親族と日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には当該他の親族のもとで起居を共にすることを常例としている場合
- これらの親族間において、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合
- 親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとする。
したがって、例えば、母親の年収が少額で、子供からの仕送りで生活しているというような状況にあれば、その子供と母親とは「生計を一にしている」こととなり、子供が負担した医療費は、その子供の医療費控除の対象となります。
国税庁のホームページ「同居していない母親の医療費を子供が負担した場合」より引用
上に書かれていることをまとめると以下のようになります。
同居している場合
- 親族が同じ家屋に起居している場合は、原則として「生計を一にする」ものとして取り扱われます。
- ただし、明らかに互いに独立した生活を営んでいる(例:二世帯住宅などで生活費を完全に分け、互いに金銭援助がない)と認められる場合は、この限りではありません。
別居している場合
別居していても、以下のようなケースでは「生計を一にする」と認められます。
- 送金がある場合
- 勤務、修学(進学)、療養などの都合で別居している親族に対し、常に生活費、学資金、療養費などの送金が行われている場合。
- 例:遠方の大学に通う子どもに定期的に仕送りをしている。施設で療養中の親の生活費を負担している。
- 余暇に生活を共にしている場合
- 別居している親族が、勤務や修学などの余暇には、他の親族のもとで生活を共にすることを常例としている場合
- 例:単身赴任の夫が週末には自宅に帰省している。
ポイントとしては、所得控除の対象者には所得要件があるのに対して、医療費控除の対象者には所得要件が設けられていない点です。
例えば以下のような場合、扶養控除の対象とは認められませんが、医療費控除の合算対象者になりえます。
所得の高い共働き夫婦
夫婦は互いに「生計を一にする配偶者」にあたります。妻(または夫)の年間所得が48万円(給与収入103万円)を超えていても、夫(または妻)が妻(または夫)の医療費を支払った場合、その医療費は夫(または妻)の医療費控除の対象にできます。
所得のある成人した子ども
社会人となり所得がある子ども(扶養親族の所得要件を超えている)が同居しており、生活費を家計に一部入れているなど「生計を一にしている」と認められる場合、親が子どもの医療費を支払えば、親の医療費控除の対象にできます。
重要なのは、納税者が実際に医療費を支払ったという事実と、その医療費が「生計を一にする」親族のためのものであるという点です。
まとめ
医療費控除の対象となる「生計を一にする」親族の意味について解説しました。扶養控除にある所得要件がないという点を覚えておいていただければと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
1級ファイナンシャルプランニング技能士
CFP®️認定者
1級DCプランナー
