退職後の健康保険をどうしたらいい??第4の選択肢「特例退職者被保険制度」とは?


日本は国民皆保険制度なので、退職して被用者保険(協会けんぽ、健康保険組合等)を抜ける際には、何らかの健康保険に加入する必要があります。

会社を辞めた場合、どの健康保険に加入するかには次の3つの選択肢があります。
  1. 家族の扶養に入る
  2. 任意継続制度を利用して退職前に加入していた健康保険に継続して加入する
  3. 国民健康保険に加入する
実は、一部の人に限られますが第4の選択肢があることをご存知でしょうか。今回は、第4の選択肢である「特例退職者被保険制度」について解説します。

なお、上記三つの選択肢と国民健康保険の保険料の試算については、「組合健保や協会けんぽから国民健康保険に変更になったら保険料負担が重くなる?いくつかの例で試算してみましょう!」の投稿で解説していますので、そちらも参照いただければと思います。

※参考: 厚生労働省「日本の国民皆保険制度の特徴


ポイント

  • 一部の健康保険組合には、年金受給権のある退職者向けに特例退職者保険制度がある
  • 特例退職者保険制度は現役時代の貢献に報いる意味合いを持つ制度である
  • 任意継続被保険者制度同様、保険料は全額自己負担だが、標準報酬月額は低めに抑えられている
  • 制度を持つ健康保険組合で、加入期間等の要件を満たす人には有力な選択肢となる


目次


1. 特例退職者被保険制度

健康保険組合の被保険者であった退職者が、退職後もその健康保険組合の被保険者になることができるのが、特例退職者被保険制度です。一定の要件を満たす健康保険組合が、厚生労働大臣の認可を受けて、「特定健康保険組合」となることで、この制度を活用できます。

そもそも健康保険組合は、主に大企業に勤めている人が加入できる組合ですが、その中の一部の組合がこの特定健康保険組合として認可されているということです。

企業および健康保険組合にとっては、永年企業に貢献し、健保の財政に寄与したOBに対して、退職後の保険給付の必要性が増える時期に還元することができる制度ということができます。

厚生労働省の資料「特定健康保険組合について」によると、特定健康保険組合の設立要件、及び特例退職者被保険制度への加入要件は以下のようになっています。

設立の要件・特例退職被保険者が将来にわたり相当数見込まれること。
・特例退職被保険者及びその被扶養者に対する健康保険事業の実施が
 将来にわたり当該健康保険組合の事業運営に支障をおよぼさないこと。
・保険給付及び保険料等の徴収を適切かつ確実に行うことができる 等
加入の要件・当該健保組合における被保険者期間が退職日まで20年以上、または
 40歳以降10年以上ある者
・老齢年金の受給資格がある者

老齢年金は原則65歳から受給できるので、65歳から後期高齢者医療制度の加入年齢である75歳になるまで、条件を満たす加入期間がある人は特例退職者被保険者となることができます。

参考: 厚生労働省「特定健康保険組合について

2. 特例退職者被保険制度を持つ健康保険組合

ちょっと古い資料ですが、平成26年11月7日付けの厚生労働省の資料「特定健康保険組合について」によると、その時点での特定健康保険組合は以下の61組合となっています。健保組合の財政が厳しくなる中、本制度を維持することが難しくなり、制度を廃止する組合も増えているようです。これらの組合に加入されている、あるいはされていた方は最新の状況を確認いただくようお願いいたします。

番号健康保険組合名番号健康保険組合名
1出光興産健康保険組合31長野県農業協同組合健康保険組合
2オムロン健康保険組合32日揮健康保険組合
3関電工健康保険組合33SMBC日興証券グループ健康保険組合
4外国運輸金融健康保険組合34ニコン健康保険組合
5キリンビール健康保険組合35日本アイ・ビー・エム健康保険組合
6キヤノン健康保険組合36日本銀行健康保険組合
7きんでん健康保険組合37日本経済新聞社健康保険組合
8慶応義塾健康保険組合38日本航空健康保険組合
9KDDI健康保険組合39日本生命健康保険組合
10国際・政策銀健康保険組合40日本中央競馬会健康保険組合
11三洋電機連合健康保険組合41日本ユニシス健康保険組合
12ジブラルタ健康保険組合42農林中央金庫健康保険組合
13出版健康保険組合43野村證券健康保険組合
14シャープ健康保険組合44パイオニア健康保険組合
15住友商事健康保険組合45パナソニック健康保険組合
16住友生命健康保険組合46博報堂健康保険組合
17セキスイ健康保険組合47阪急阪神健康保険組合
18全日本空輸健康保険組合48日立健康保険組合
19ソニー健康保険組合49富士通健康保険組合
20第一生命健康保険組合50富士フィルムグループ健康保険組合
21大和証券グループ健康保険組合51ホンダ健康保険組合
22大和ハウス工業健康保険組合52三菱東京UFJ銀行健康保険組合
23中央ラジオ・テレビ健康保険組合53三菱UFJ証券グループ健康保険組合
24テレビ朝日健康保険組合54三菱電機健康保険組合
25電通健康保険組合55みずほ健康保険組合
26トーエーネック健康保険組合56民間放送健康保険組合
27東京ガス健康保険組合57明治安田生命健康保険組合
28東京放送健康保険組合58明電舎健康保険組合
29東京薬業健康保険組合59ルネサス健康保険組合
30東芝健康保険組合60労働者健康福祉機構健康保険組合
61早稲田大学健康保険組合
※厚生労働省「特定健康保険組合について」より引用

3. 特例退職者被保険制度における保険料

特例退職者被保険者の保険料は、任意継続被保険者の保険料と同様全額自己負担になります。

保険料算出の基礎となる標準報酬月額は、当該組合の標準報酬月額の平均と、標準賞与額の平均の1/12を合算した額の1/2の範囲内で組合が規約で定めることになっています。

任意継続被保険者の保険料は、退職時の標準報酬月額、または、健康保険組合の全被保険者の標準報酬月額の平均額のいずれか低い方に保険料率をかけて計算されるのに対して、特例退職者被保険者の保険料は規約で定めた標準報酬月額で計算されるので、保険料が安くなる可能性が高くなります。

4. 国民健康保険との保険料比較

国民健康保険の保険料については、「組合健保や協会けんぽから国民健康保険に変更になったら保険料負担が重くなる?いくつかの例で試算してみましょう!」の投稿で詳しく解説しました。その投稿で試算も行いましたが、国民年金保険料は前年の所得と、扶養家族の人数によって保険料が変動します。一般に扶養家族が多いと国民健康保険の保険料が高くなり、その場合は特例退職者被保険の方が安くなる傾向があります。所得や扶養状況の実態に合わせて、自治体に試算してもらうなどして比較いただければと思います。

5. まとめ

今回は、「特例退職者被保険制度」の解説を行いました。制度を持つ健康保険組合は限られていますが、利用可能な人にとっては有力な選択肢になると思いますので、検討されることをお勧めします。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

1級ファイナンシャルプランニング技能士
CFP®️認定者
1級DCプランナー

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